今まで私が関わった卒論の紹介

2016 年度

内山将勝 因果関係を表すダケニとダケアッテ
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    2012年度の橋本萌子さんの卒論に興味を持ち、そこで提起された問題に、あらためて取り組んだ卒論です。橋本 (2013) の時点では、構造的な問題があるのではないかと思っていたのですが、内山くんと議論を重ねている間に、必ずしも構造的な問題ではなさそうだという方向になってきました。今では、この卒論での結論は、かなり妥当性が高いと思っています。ただ、もちろん、ダケニとダケアッテで、なぜ、このような用法の違いが生まれたのかという点については、さらに考察が必要でしょう。

    落合里紗 副助詞クライの機能と用法
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    これまで、卒論では、このタイプのトピックを扱わなかったのですが、分類とアノテーションガイドラインそのものをテーマとした卒論です。クライの分類には、いろいろな問題があるだろうと思いますので、今後は、別の分類方法とも比較しながら、どうして、この分類が一番いいと言えるのか、という議論を含めていくべきでしょう。

    原菜々子 接尾辞ゲの非断定的用法
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    「自分で撮った顔写真を加工して、きれいげな感じにした。」という用法は、私としては、あまりなじみのないものだったのですが、確かに最近ではよく耳にする気がします。この卒論では、先行研究をよく踏まえた上で、この新しい用法を従来の用法とも関連づけながら、適切に位置づけてくれました。

    山之口浩平 統語意味論によるアマリの分析
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    2011年度の兼行くんの卒論での指摘が興味深かったので、それに対して理論的な分析を行ったのが、大口 (2013) でした。ただ、その時点では、まだ"統語意味論" が発展途上だったため、分析のためのツールが中途半端だった部分が多かったのが残念でしたが、この卒論では、あらためて、上山 (2015) の『統語意味論』の枠組みで、分析をし直してくれました。このように度合いが関わる意味の分析は、簡単には行かない部分が多く、難しかったと思いますが、粘り強く取り組んでくれました。さらに、大口 (2013)では説明のできない「それは、あんまりだ」のような文例にも対処できるよう、新たな提案もなされました。

    2015 年度

    井野 行啓 動詞接続のダケダとマデダ
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    「こうなったら、法的手段を取るダケダ」は、「こうなったら、法的手段を取るマデダ」とも言い換えられるのに対して、「昨日は、家にこもってテレビを見ていたダケダ」は「*昨日は、家にこもってテレビを見ていたマデダ」とは言い換えられない、ということに注目して、どういう場合に言い換えができないかを考察してくれました。よくがんばってくれたと思いますが、当初の見込みよりもその一般化が難しく、本人としては十分に納得の行かない結果だったのでしょう、非公開希望ということになりました。

    久保 舞珠 程度副詞モットの解釈
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    なかなかテーマ選びに苦戦した結果、以前から気になっていたことを追求したいとのことで、このテーマになりました。モットが述語の量に係るのか度合いに係るのかという違い、そして、一見、度合いを表すとは思えない述語が度合いを表すものとして再解釈される場合について、自分なりに考察してくれています。

    塚元 博子 場所を表す形式名詞の用法と制限―主要部名詞としてのアタリとトコロ―
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    アタリもトコロも、どちらも独立の名詞としての用法を保ちつつ、形式名詞としての用法も持った語彙ですが、その用法にはズレもあります。どの点が共通しており、どの点が食い違っているかをまとめてくれました。一般化としては、まだ少し整理しきれていないところが残っていますが、将来的に、例えばこれらの語の分類アノテーションをするときなどには、十分、参考になる考察だろうと思います。

    友池 真祐子 ベキダの連体修飾用法と心理動詞
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    ベキというと、すぐに思いつくのは、「〜しなければならない」という義務を表す用法ですが、この卒論では、「愛すべき子供」のように、「義務だから、しなければならない」という意味ではなく、「当然、なるべくしてなった」という意味のベキがどういう場合にあらわれるかを調べてくれました。実際に、コーパスからある程度の例文をすべてチェックしていった結果、心理動詞との共起が目立つということがわかりましたが、心理動詞だからといって、「義務」の意味にならないとも限らず、難しさを感じさせられました。

    永野 博子 無生物主語受身構文と動詞の項構造
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    高井岩生氏の一連の研究では、Hoji 2014 などに従い、受身に、加項 (argument-taking) ラレと除項 (argument-reducing) ラレの2種類があるということを主張しています。この卒論では、いわゆる3項動詞が除項ラレと共起できるかどうかを1つ1つ丁寧に調べてくれました。どのような場合に除項ラレと共起できるかという一般化にまでは至りませんでしたが、今後の研究の礎になるだろうと思います。

    福嶋 香奈 連体修飾形式ヨウナ/ミタイナの解釈と交換可能性
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    ヨウダとミタイダは、一般的に、その用法にかなり重なるところが多いとされていることが多いですが、ヨウナ/ミタイナで比べてみると、必ずしも交換可能でない場合もよくあるということに注目した卒論です。どういう場合に交換できないのかという一般化については、まだ改良の余地があるでしょうが、このような地道な調査が今後の研究につながっていくのだろうと思います。

    森田 千尋 名詞修飾表現「AのBのC」と非飽和名詞
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    「AのB」構文は、奥が深いことで有名ですが、この卒論では、さらに1項増やした「AのBのC」構文を取り上げ、「AのB」構文のときにあるすべての可能性が「AのBのC」構文のときにもあるかを綿密に調べてくれました。もちろん、あらゆる「AのBのC」構文を対象にすることは不可能なため、"非飽和名詞と数詞及び人名を含むもの" に限ってはいますが、西山 (2003) を熟読した上で丁寧な考察が行われており、大変な力作だと思います。

    2014 年度

    野田 真澄 〜カラと〜アト
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    「〜してから」と「〜したあと」が交換可能な場合と、そうでない場合との違いを考察した卒論です。特に、日本語教育などのために必要な知識だと思いますが、なかなか文の判断そのものが難しく、まとめ方も苦労しただろうと思います。前件と後件の関連性や因果関係というものが、1種類ではないことはほぼ明らかだと思いますが、それをどのように分けるのが適切なのか、というのは、実にやっかいな問題だと思います。

    廣瀬郁子 汎用的解釈と慣用的解釈:接辞「御」の用例分析
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    「御」という接頭辞が使われている例をかなりたくさん集め、観察をした卒論です。なかなか一般化のできない対象だったので、大変だったろうと思いますが、ほぼ独力で完走してくれました。

    松村芽依 量を表す連体修飾節と連体詞ソノ
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    この卒論は、「*太郎が寿司を 30 個食べた量」という文が容認性が低いのに対して、「太郎が寿司を 30 個食べたその量」というふうに言うと、容認性が上がるのはなぜか、というところから始まりました。何かが違う、とは思っても、その違いを表現するのが難しかっただろうと思います。これを「主題-解説」タイプと位置づけただけで問題が解決するわけではありませんが、連体修飾というもの全体をとらえようとする場合、忘れてはならない、1つのポイントではあるだろうと思います。

    丸尾ゆみ 「NP1 ノNP2」における「初め」の意味解釈
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    いわゆる「AのB」構文について、特に「〜の初め」と「初めの〜」の違いに特化して考察した卒論です。名詞が時間幅を持つと解釈されるかどうか、また、順序解釈か時期解釈か、など、名詞の解釈がいかに微妙で難しい問題であるかを痛感させてくれます。

    2013 年度

    清田早紀 内容節における蓋然性を表す副詞について
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    タブン/キット/オソラクという、一見、同程度の蓋然性を表すと思われる副詞でも、容認性の違いを示すことがあるという点に着目した卒論です。粘り強い考察の結果、内容節に「事態/事実/判断」という3つのレベルがあるのではないかという結論を導き出してくれました。この3つの違いを正確にどのように定義するかは、難しい問題であり、そのため、軽々しく扱うことができませんが、命題にもいろいろなレベルがあるということは、様々な研究者が指摘していることであり、重要な発見につながりうる考え方だと思います。

    桐原美咲  逆接の接続助詞の生起条件
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    いわゆる逆接の関係である2つの事象でも、「P ノニ Q」という言い方ができる場合とできない場合があるということに着目した論文です。どうして、このような結果になるのか、という点は、いまだに謎ですが、ここで用いられている観点に基づいて、他の逆接の接続助詞なども分析してみることによって、もっと本質的な理解に近づける可能性もあるかもしれません。

    原大樹  事象叙述述語の属性叙述化
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    「お世辞は照れる」のように、何か(「お世辞」)が何らかの心理的な影響(「照れる」)を引き起こす場合、後者を前者の属性として述べることができるかどうかを調べた卒論です。なかなか判断が難しい例文も多く、一般化にてこずったと思いますが、名詞だけだと容認性が低くても、修飾要素が伴うと容認性が高くなる場合があるというのは、興味深い指摘だと思いました。

    久永知美  タビニとゴトニの機能と解釈
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    タビニとゴトニは、おおまかに考えると、「毎回」という意味で同義のように思えるかもしれないが、体系的な違いがあるということを例文で示してくれました。また、その中にも、前件と後件が単に共起する場合と、主語の意志による行為についての場合とで条件が異なるということを発見した点が重要だったと思います。このように、行為というものを単に客観的に眺める場合と行為の主体者から見た場合との違いというものは、田村(2013)にも関わりうる点かもしれません。

    平原里美  漢語複合名詞に接続する複合助詞
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    ここで「漢語複合名詞」と呼ばれている、いわゆるサ変動詞語幹の名詞は、名詞性と動詞性を合わせ持っていることが知られていますが、なかなか一般化が難しく、体系的な記述が難しいものです。この卒論では、「〜につれて」とともに使えるかどうかを調べることによって、名詞性があるかどうかを調べる、という切り口を提示してくれました。今後も、このような切り口に基づいて、より広範な調査が望まれるところだと思います。

    吉田雄大  否定強調副詞の生起可能性
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  • [ひとこと]
    動詞のアスペクトは、その理論的位置づけを含め、難しい問題の1つですが、この卒論では、動詞のタイプと副詞の共起性について考察してくれました。ある程度、予測される結果であったとは言え、1つ1つ自分の目で確認することに意義があったと考えています。

    2012 年度

    荒牧奏子 PナラQ形式の意味と用法
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    「ビールならキリンだ」というのと「ビールなら冷蔵庫だ」というのは、表面上は同じ構文に見えるものの、その解釈が大きく異なることに興味を持って、このテーマに取り組んでくれました。なかなか決め手となる例文に出逢えず、結論にメリハリをつけることが難しかったと思いますが、この理解に至るまでには、様々な例文について具体的にいろいろな状況を想定して考察を深めてくれていました。

    今中亜樹 疑問文におけるナンカ/ドウモの生起条件
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  • [ひとこと]
    前年度の授業で読んだ、『日本語文法』の大工原 (2009) の論文に興味を持ち、さらに進めることを目指して取り組み始めました。結果的には、大工原 (2009) の問題点を指摘するというよりは、大筋としてはその結論を支持する観察を充実させたということになりましたが、ずいぶん多くの例文を根気強く集め、整理をしてくれました。今後、言語形式としての疑問文構文と、発話行為としての疑問文との対応関係を考察する際にも参考になる例文群が得られたのではないかと思います。

    川下悠希 Xノイチブ/イチブノXの解釈
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  • [ひとこと]
    「一部の観客」というと、「観客」という全体集合の中の一部、という解釈であるように思われるのに対して、「一部の心無い観客」といった場合には、(「心無い観客の一部」とは異なり)「心無い観客」を全体集合とはみなしていない、という点に気がついたことが出発点でした。本論文では、解釈の仕組みにまでは踏み込んでいませんが、そもそも日本語でどうして「多くの/ほとんどの学生」とも「学生の多く/ほとんど」とも言えるのか、ということは重要な問題だと考えています。そのあたりに切り込む際には、本論文でいろいろ集めてくれた観察が大いに参考になるだろうと思っています。

    榊原愛 オノマトペの語幹の拡張と品詞交替可能性
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    私は、オノマトペについては、これまであんまり注目してこなかったので、「べたべたと」と言えれば、「べたべただ」「べたべたする」とも言えて当然なのかと思っていたのですが、確かに「*おずおずだ」「*ずたずたする」など、言えない場合がいろいろあるのだということを学ばせてもらいました。実に多くの例をいったいどの方向からまとめたらいいものか、大変悩んだと思いますが、何度も整理の仕方を考え直し、最後まで粘り強く取り組んでくれました。

    橋本萌子 ダケニとダケアッテの解釈と構造
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  • [ひとこと]
    〜ダケニと〜ダケアッテは、同じ意味だと思ってしまっていたので、このようにはっきりした違いがあるということを指摘されたときには驚きました。いったん気がついてみると、その違いは単なるニュアンスの違いというようなものではなく、明らかに構造的なものが関わっていることを予感させるものでした。ただ、本論文でも構造の違いについて議論されていますが、その主張をどのようにして根拠づけたらいいのか、扱い方が難しく、提出ぎりぎりまで悩んで自分の限界に挑戦してくれました。この違いをどのように位置づけるべきなのかは、今後も追究する価値のある問題だと思います。

    平山祐美 モウ・マダの意味と用法
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    モウやマダなどの副詞の使い方の問題は、語学教育の現場でもよく話題になることだと思います。本人の理解が進んでいっても、なかなか決め手となる例文に出逢うことができず、終盤は焦る気持ちとの戦いもあったと思いますが、落ち着いて1つ1つの例文を丁寧に説明していってくれました。

    藤丸華 ヨリ比較文における省略条件
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    この論文は、「スマートフォンの操作はパソコン(の操作)より簡単だ。」という文の場合、カッコ内を省略してもしなくても、あまり変わりがないのに対して、「太郎の父親は花子??(の父親)よりハンサムだ。」という場合には、カッコ内を省略すると、意図されている解釈が非常に難しくなる、という観察が出発点になっています。当初、この観察を話してもらったときには、単に状況設定の容易さの問題かと思っていましたが、あきらめずに多くの例を観察してくれたおかげで、名詞の意味タイプの違いというものが関わっているということが次第に明らかになってきました。名詞の解釈を考える際、総称的解釈や全体と一部の関係をどうとらえるかは難しい問題ですが、本来避けて通れない重要なポイントです。名詞の解釈の理論が進んで、将来、その問題に取り組める段階まで来たときには、この論文で考察してくれた内容が大きな手がかりになる可能性があると思っています。

    松山佳保里 叙述関係を表すNP1ノNP2
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  • [ひとこと]
    通常、「A の B」という表現は、B の指示対象に対して A という表現が修飾している場合がほとんどですが、「お姉ちゃんのうそつき!」という構文では、その原則とは異なる解釈になっています。本論文では、その構文が使える条件について、わかったことをまとめてくれました。

    百崎晃平 日本語における区別表現:「別の/他の/異なる/違う」について
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  • [ひとこと]
    いわゆる類語の使い分けについては、文構造に関わらない場合が多いので、卒論のテーマとしては、あまり勧めないことが多いのですが、本論文で取り上げられている表現については、意味解釈の仕組みという観点からも興味深い可能性があると思いました。結果的には、意味解釈の仕組みにまで踏み込むことはできませんでしたが、語学教育には役に立つ整理ができたかもしれないと思います。

    2011 年度

    兼行 裕  副詞的用法のアマリの意味制限
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  • [ひとこと]
    初めは、なかなかトピックが決まらず少しハラハラしましたが、結果的にはとてもよいトピックにめぐりあいましたね。どの方向に持って行ったらいいのか、とまどっていた時期も見受けられましたが、あと1ヶ月を切った頃から、観察がぐんぐんと収束しはじめ、当初思っていなかったほどきれいな対立が描かれて感心しました。特に、「あまりの状況に目をおおった」とは言えるのに、「*状況のあまり、目をおおった」とは言えないということ、一方、「あまりの痛さに泣いてしまった」と「痛さのあまり泣いてしまった」には、微妙な違いしかないという点は、さらに押し進めれば、修士論文のトピックとしても成り立つものであるという印象を持っています。

    村上 望  コピュラ文の解釈―ダケ/シカによる意味特性の判別―
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  • [ひとこと]
    コピュラ文の分類という、王道の難しい課題に取り組んでくれました。以前ならば、このようなトピックは卒論では手に負えないだろうと判断していたのですが、村上さんの場合は、ダケやシカを使って言い換えることによってコピュラ文の解釈の違いを際立たせようとする着眼点があったので、挑戦してみることになりました。ちょうど私も「統語論に基づく意味解釈システム」を構築しているところなので、その研究のために私自身、このあたりをもう少し勉強してみたかったということもあり、村上さんもがんばってそれに応えてくれました。ただ、まだ私のシステムが安定期に入っていないため、要らぬ苦労をかけてしまった面があると反省しています。

    濱中 千紘  ナンカ/ナンテの機能と用法
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  • [ひとこと]
    「君なんか大嫌いだ」と「君なんて大嫌いだ」の違いは何だろうかというところから出発した研究でしたが、いざ取り組んでみると、接続の制限も予想より複雑で、いくつかの用法がからみあっていて、苦労をしたと思います。整理をしようとすると、つい「あちらを立てれば、こちらが立たず」という状態になりがちで、あげくのはてに、ナンカとナンテには本質的な違いがないように思えたことさえありましたが、最終的には、ナンカとナンテの接続条件の違いを構造的に表してくれました。特に、構造的な違いと例示/軽視の解釈との関連が示せた点は大きいと思います。これも、前期の時点からたゆまず粘ってくれた賜物でしょう。

    松尾 知侑  コウ/ソウ/アアの指示特性
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  • [ひとこと]
    指示詞コソアについては、私も以前から興味を持っていましたが、松尾さんは、それとは独立に、やはりコソアに関心があったそうです。初めは、コソア全般についても見ていたのですが、次第に、従来の研究で比較的手薄なコウ/ソウ/アアが話の中心になっていきました。丁寧に、様々な状況を設定した上でコウ/ソウ/アアそれぞれの使用制限をまとめてくれて、私もとても勉強になりました。コウ/ソウ/アアの使い分けには、コソア一般の使い分けと共通する部分と、そうでない部分とが混在している点が特に興味深いと思っています。「そう言った」の場合のソウが指しているものは、言葉なのか、その内容なのか、という問題は、間接話法/直接話法の問題とも関わりのある重要なポイントだと思います。

    民部 紘一  名詞の意味と修飾における役割
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  • [ひとこと]
    民部くんは、もともと 2006年度の中川麻衣子さんの卒論に触発されて、このトピックを選びました。私が「統語論に基づく意味解釈システム」を構築しているところなので、その観点からあらためて取り組むことによって、新しい展開が見込めるかもしれないと思ったのです。村上さんの項でも述べたように、私のシステムそのものがまだ安定していないために迷惑をかけた面はあったのですが、民部くんが見つけてくれたパラダイムは、私のほうのシステムを人に紹介する際に、すでに大いに役に立っています。日本語の「A の B」という表現は、原則的にどのようなものでも解釈をこじつけられると思っていたのですが、「値段の商品」「サイズの靴」などの表現はどうしようもないこと、そして、それが「お手頃の値段の商品」「サイズ 24 の靴」などになると、とたんに修飾要素として解釈ができる、というのは、目からうろこが落ちる思いでした。この違いは、兼行くんの「あまりの状況に」vs.「*状況のあまり」にも通じるものがあることは明らかでしょう。今後、さらにこのあたりの整理が進むことによって、日本語文法の見通しが良くなることを期待しています。

    山田 和美  PトキニQ −事態の順序と複文における時制解釈−
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  • [ひとこと]
    当初は、「P トキニ Q」を逆にして「Q トキニ P」と言えるかどうか、という形で始まりましたが、最終的には、「P トキニ Q」が容認可能になる際の、P と Q の時間関係の制限を明らかにする、という課題に正面から取り組んだ研究になりました。この論文が特に優れているところは、典型的な例で「P トキニ Q」の時間関係を述べるだけでなく、一見、容認不可能に見える例でも、どのような文脈を与えれば解釈できるようになるか、ということを丁寧に示した点です。その文脈の与え方が実に巧みで、状況がとても生き生きと描写されているため、思わず笑いを誘われることもしばしばです。P と Q の時間関係というものが、客観的に固定しているものではなく、主観で様々に変容しうるものだということが示された点でも重要な成果だと思っています。

    2010 年度

    重松美香  いわゆる引用の助詞〜ッテの機能と用法
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  • [ひとこと]
    「あの子、昨日、来たんだってさ」「うるさいなあ、今、行くって」「そんなこと、言ったって。ねえ。」など、〜ッテには様々な用法が見られることに興味を持ち、いろいろ例文を観察して、その用法を整理しなおそうとしてくれました。ただ、2009年度の伊藤さんの場合と同じく、やはり、埋め込み標識の整理は一筋縄ではいかないということを再度認識させられました。なかなか「決め手」が見つからず苦労したと思いますが、最後まで粘り強くがんばってくれました。

    瀬真理  XカラYマデとXカラYニカケテ
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  • [ひとこと]
    格助詞の用法の比較はよく見かけますが、このようにペアで比較するという視点は私にとっては新鮮でした。マデにしろカケテにしろ、それぞれいろいろな用法があるので、このようにペアにすることによって対象をうまく限定することができたと思います。この2つの表現はよく似ていますが、巧みな例文でその違いをわかりやすくあぶりだしてくれました。特に、「真夏から真冬まで」という表現ならば「どんな時でも」という意味になるのに対して、「真夏から真冬にかけて」と言われると、まるで春を除外しているような解釈になってしまうという点は、これまで気がついたことがなかったので、とても印象深いものでした。

    竹内絵里  副詞ナカナカの意味と用法
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  • [ひとこと]
    当初は、否定文の場合のナカナカと肯定文の場合のナカナカの関連を追究したいとのことでしたが、(それこそ)「なかなか」手がかりが見つからず焦りが出てきたころに、ふと浮上したのが、「肯定文におけるナカナカ 2」の用法でした。「なかなか、いいですね」という表現には、どこか「手放しでほめていない」感がつきまとうと思っていたのですが、その時点で欠点が見つからないと思っていても使える状況があるという発見が新鮮でした。

    割鞘麻衣子  セッカクの連体修飾用法
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  • [ひとこと]
    セッカクも含めて、話者の評価が関わる副詞の研究はいろいろありますが、この卒論では、「せっかくのごちそう」のようにそれが名詞を修飾する形で使える場合の条件に注目しました。これまでは、連用修飾の場合の研究がほとんどで、連体修飾については、そういう形式があるという指摘にとどまっていたようですが、この卒論では、例文をいろいろ工夫して、どういう違いがセッカクの連体修飾用法の容認可能性に影響を及ぼすのかをわかりやすく示してくれました。早い時期から、毎週コツコツと積み上げてきた賜物だと思います。

    2009 年度

    安藤恵梨香  形式名詞ノダ/ワケダの用法と解釈

    伊藤絵里  日本語における埋め込み文の代用表現
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  • [ひとこと]
    埋め込み文全体を代用表現で表わしている「そう思う」「そこに驚いた」「そのことを伝えた」などの使い分けを、膨大な量の例文を作って考察してくれました。例文が実に豊富で、その種類も多岐に渡っていたため、例文を見渡しているだけでもいろいろ刺激があり面白かったのですが、それをまとめていくとなると、量が多いだけに苦労も多く、大変だっただろうと思います。私も、実際にこれだけの例文を見る前は、もう少し簡単に一般化が見つかるだろうと思っていたので、いろいろな点で勉強になりました。

    西山なつ紀  日本語の同語反復述語文の意味と特性
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  • [ひとこと]
    この論文で考察されているのは、「食べることは食べた」というような構文の意味です。何らかの留保があることは、すぐにわかりますが、例文ごとに意味がさまざま異なって感じられ、どのように整理していけばよいか、切り口にたどりつくまで、ずいぶん苦労をしたと思います。最終的には、そもそもその行為が起こったと判定できるかどうかに留保があるケースと、その行為が起こったことは確実だがそこから期待される結果に関して留保があるケースとに分けられるということがわかりました。留保のニュアンスには微妙なものが多いですが、この区別は非常にはっきりしていてわかりやすいと思います。

    2008 年度

    下東晃子  副助詞ダケとバカリについて
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  • [ひとこと]
    限定を表わす助詞ダケとバカリの違いについて考察した論文です。終盤になって、定延氏の『煩悩の文法』に出会い、自分が言いたかったことのほとんどがそこにすでに書かれていたことがわかり、ずいぶん焦ったと思いますが、あきらめずに丁寧に自分の考えと比較し、定延氏の論文では取り上げられていなかった側面に焦点を当てて書き上げてくれました。

    高波裕  接尾辞‐ゲについて
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  • [ひとこと]
    「涼しげ」「重たげ」などは、新聞などで使われても違和感のない表現ですが、口語では「やばげ」「おもしろげ」などの言い方も珍しくありません。だからと言って、どんな場合でも使えるわけではないので、使い分けの条件があるのではないかということで始まった研究でした。ただ、実際に調べ始めてみると、個々の例の容認性が安定せず、個人差も非常に大きかったため、最終段階で -ゲ の使い分けの条件を求めることはあきらめ、-ゲ と -ソウ の違いを中心にして議論をまとめてくれました。

    野田薫  名詞修飾節の解釈: 個体記述型・事態記述型・理由供給型の違いについて
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  • [ひとこと]
    九州大学21世紀プログラムの学生さんなので、卒業論文作成のスケジュール等が少し違ったのですが、言語学専攻の学生さんたちと一緒にいろいろ議論に参加してくれました。この論文の主役は、名詞修飾節の中で特に「理由供給型」と名付けられたものの解釈に関する考察です。区別が微妙なケースもありますが、もっともはっきりしているのは、主要部の名詞が固有名詞の場合です。英語における非制限的関係節は、独立文として解釈されると仮定されていることが多いですが、この論文では、その節が述語が表わす事象の「理由」として解釈できないと不自然になる例をいろいろあげてくれました。名詞修飾節の解釈は、主要部の名詞との関係においてのみ考察されていることがほとんどですが、このように述語との関係も考慮しなければならないことがあるということを明快に示してくれました。さらなる発展が期待されるトピックだと思います。

    廣永智子  Vヤシナイの解釈と用法
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  • [ひとこと]
    「なかなか来やしない」「ちっとも食べやしない」などの表現が持っている意味について考察してくれました。初めは、思いつく例文は不満を表わすものが多かったのですが、必ずしもそればかりではないということにも気がつき、その使い分けの条件が見つかるのではないかと、いろいろな動詞で例文を作り、考察を進めていきました。結果的には、どういうタイプの動詞であっても、文脈さえ整えれば、不満を表わす例文も、不満を表わさない例文も作れるということが判明したので、使い分けの条件を見つけるという当初の目的は果たせなかったのですが、その考察の過程で、動詞の意志性が解釈に影響を与えているということがわかり、豊富な例文で、そのことを示してくれました。

    2007 年度

    井口美咲  副助詞ダケの相応の用法
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  • [ひとこと]
    ダケの意味としては、「〜のみ、〜に限って」という限定の用法が注目されることが多いですが、この論文では、「有名なホテルだけに、...」といった、いわゆる「相応の用法」に注目し、「有名なホテルだけに」という表現と「有名なホテルだけあって」という表現の違いを考察しています。微妙な違いなので、理解が進めば進むほど、どのようにまとめればいいか悩んだと思いますが、最後まで投げ出さずに粘ってくれました。

    島本明子  会話中にあらわれる文末詞シ
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    この論文で注目しているのは、A: 「私ってかわいくないよね…」 B: 「かわいいし!」のような、実際に友人たちの間でかわされている会話内での「〜し!」の用法です。いったいどのような場合に、このような「〜し!」が使えるのかを考察し、「マイナスの感情の出どころ」という観点から分類してまとめてくれました。文末詞の用法には、いろいろな側面があって分析が難しいですが、今後の布石になるだろうと思います。

    高橋百華  上昇調のイントネーションで発話される否定疑問文の意味機能
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    「〜ない?」「〜んじゃない?」という文は、形式的には否定疑問文ですが、用法としては、何らかの命題の否定の真偽を尋ねているとは限らず、この論文で提案されているように、「話し手自身の意見を述べる」こともあります。ここでは、特に平板型のイントネーションで発話された場合に注目し、この用法で観察される様々な制限について分析しています。特に、「〜ない?」は原則的に「直接体験」にもとづく意見であり、その点で「〜んじゃない?」と異なるという指摘が興味深いと思いました。

    長野彰子  「〜かわりに」の意味と用法
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    「かわりに」という表現は、「[手を洗う] かわりに [足を洗う]」のように、片方を放棄するかわりに他方を成り立たせる場合もあれば、「この街は [静かで落ち着いている] かわりに [交通の便がやや悪い]」のように、両方が成り立っている場合もあります。不思議なのは、それほど大きな意味の違いがあるということを普段あまり意識すらしていないということです。当初、私は、もっとこの2つの用法の違いがはっきりしているだろうと思っていたのですが、結果的には、文脈によってどちらの解釈も可能な文が非常に多いという事実に驚かされました。この論文では、いろいろな例文を考察して、どのような条件が満たされていると、どちらの解釈になる傾向が強いのかということが、たいへんすっきりとまとめられています。

    2006 年度

    白石卓也  カモシレナイとノカモシレナイ
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    「明日は雨が降るダロウ/カモシレナイ」という文は気象予報士が言ってもおかしくない文であるのに対して「明日は雨が降るノダロウ/ノカモシレナイ」だとおかしい、という出発点の観察がとても興味深い指摘でした。「ノダ」の意味と用法については、すでにいろいろな研究があり、新しい発見をのぞむのは難しいテーマでしたが、自分なりに考察を深めてくれました。

    高畑晶子  形容詞の名詞化接尾辞-sa、-miの意味と分布
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    「面白さ」と「面白み」のように、「〜さ」「〜み」はどちらも形容詞を名詞にする働きがありますが、この2つにどのような違いがあるのかというテーマに取り組んだ研究です。「〜み」の例がかなり限られているために一般化に苦労したようですが、大量の例文と格闘した結果、「〜さ」「〜み」の基本的意味をそれぞれ2つずつあげ、それらの選択に関わる条件を導き出しました。

    徳田涼子  接続助詞ツツとナガラについて
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    「母は電話をしながら(その場にいない相手に向かって)お辞儀をする」とは言えるのに、「母は電話をしつつお辞儀をする」と言うとなぜ奇妙なのか、というのが、この研究の発端でした。通常、ツツもナガラも動作の並行を表す接続助詞とされていますが、その細かい違いについて考察を加えている論文です。

    冨田起世  複合動詞V‐カケルとV‐カカルの意味と形式
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    「火が消えかけている」と「火が消えかかっている」は、ほとんど同じ意味のように思われますが、その微妙な意味の違いに切り込んだ論文です。使われている例文の状況設定が巧みなので、著者の意図がとてもわかりやすく提示されています。また、著者の提案する一般化に沿わない例もあるのですが、それらがなぜ反例に見えるふるまいをするのかということも説得的に述べられており、感心しました。

    中川麻衣子  「NのN」の意味と修飾関係 ―「偽物のルビー」と「ルビーの偽物」―
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    fake という英語の形容詞の意味の記述が一筋縄でいかないということは Higginbotham (1985) で知っていましたが、そのような意味が日本語では「偽者のルビー」とも「ルビーの偽者」とも表現できるということは(私にとって)盲点でした。本論文では、他のいろいろな表現も使って、語順の違いによってもたらされる意味の違いを観察し、「の」による修飾の意味機能にまで踏み込んでいます。本論文では、形式意味論の枠組みはとられていませんが、内容的にはかなりのところまで来ているので、ここでの観察に基づいて本格的な形式意味論の議論に持っていくことは難しくないだろうと思います。

    永嶋いづみ  非難の文脈と逆接助詞
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    日本語には、逆接の関係を表すと言われている接続助詞がいろいろありますが、その中には「〜くせに〜」のように、文全体が非難をする文脈でしか使われないものがあったり、逆に、非難の文脈では使いづらいものがあったりするということを明らかにしました。例文の作り方が上手なので、問題にしている対立がわかりやすく、例文を読むだけでも楽しませてもらいました。論文の構成について、何度か大掛かりな組み換えを指示したのですが、その都度、あっという間に全体を適切に書き換えてきてくれて、舌を巻きました。

    割鞘優子  今ノトコロの解釈と意味機能
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    田窪・笹栗 (2002) のトコロの分析をベースとして、「今のところ」という表現の意味機能を考察した論文です。枠組みの理解から、いろいろな例の観察に基づく一般化、そしてその反例に見えるものについての考察、とほとんどすべての手順を、教員の助けを借りることなく、自力で完成形に持ってきました。先行文献の中で示唆されていることを "再発見" してしまっている部分も含まれているかもしれませんが、全体を自分できっちり理解して構成したことは高く評価したいと思っています。

    2005 年度

    安藤宏  日本語の形容詞連用形の名詞的用法について
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    「遠くを見た」のように、形容詞の連用形に直接格助詞が後続する用法について観察し、Larson & Yamakido (2001) "A New Form of Nominal Ellipsis in Japanese" (J/K 11) で提案されている分析に対する問題点をあげたものです。興味深い観察がいくつかあげられており、このような積み重ねをしていくことによって、将来的に代案の提案にも結びつくのではないかと思わせてくれます。

    亀川裕子  複合動詞「V-スギル」の特性について
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    日本語には「早く着きすぎた」という表現がありますが、英語なら「arrived too early」と言うことを考えてみてもわかるように、実はこれは「着くのが早すぎた」という意味です。ところが、だからといって「死ぬのが早すぎた」という場合に「早く死にすぎた」と表現することはできません。この論文は、その違いがどこに起因するかという問題に取り組んだものです。随所に鋭い洞察力が見られ、興味深い論文になりました。形容詞の本格的な意味論にも刺激を与えうるものだと思います。

    須川友美  日本語の程度をあらわす助詞について 〜ホド、クライの意味と用法〜
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    「彼女{ほど/くらい}頭のいい子はいない」という場合には、ホドとクライにあまり意味の違いがないように思えますが、「あれくらいの美人」と「あれほどの美人」だと、ニュアンスの違いがかなりはっきりしてきます。ホドとクライの意味の違いについて、いろいろな例文をあげて考察した論文です。

    鈴木さやか  複合助詞マデモの意味と用法 −マデモナイとナイマデモに着目して−
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    「〜するマデモナイ」という表現と「〜しナイマデモ...」という表現は、どちらも「マデ」「モ」「ナイ」という語彙の組み合わせであるにもかかわらず、語順が違うと意味・用法が大きく異なります。その違いに注目して大胆な分析案を提案した論文です。分析そのものについては、いろいろ意見がありうると思いますが、ここで指摘されている現象は、「ナイ」のスコープという観点からも興味深いものだと思います。

    宮本茂治  人称代名詞の役割をはたす普通名詞について

    2004 年度

    片岡大輔  日本語における指示詞「コレ」の用法について ―法律文を中心に―
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    「〜は、これを…とする」というような、法律文に特徴的な構文に注目して、「これ」の用法を考察した論文です。旧刑法と現刑法は、内容はほぼ同じで文体だけが書き換えられているので、用法の頻度等を比較する材料として興味深いと思います。この「これ」の用法は、「〜は」の用法とも関連しているため、一筋縄ではいかない面がありますが、地道に資料を調べた点で意義のある研究になっていると思います。

    熊丸令  日本語の不定語・重ね不定語の特性と分析
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    「太郎は、誰々が来ると発表した」のような「誰々・何々・いついつ」等の語の用法を調べた力作です。これまで、日本語の不定語としては、「誰・何・いつ」「誰か・何か・いつか」「誰も・何も・いつも」等の表現がもっぱら扱われてきましたが、不定語の全体像をつかむためには、ここで分析されている「誰々・何々・いついつ」等の "重ね不定語" も視野に入れるべきだと思います。どのような場合に重ね不定語が容認されるのか、その条件が少し複雑ですが、ここで取り組まれているように埋め込み文の意味タイプに注目することが不可欠でしょう。この研究そのものは記述的なものですが、理論的な統語論に寄与する可能性が高いものだと思います。

    田中千恵  日本語の助動詞「ハズダ」とその否定について
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    「ハズガナイ」と「ハズデハナイ」の違いをいろいろな側面から浮き彫りにした研究です。状況設定がたくみで、わかりやすい例文が多数あげられています。否定と呼応する要素(シカ・ケッシテ等)との関連や、コソアとの関連など、分析として説明しきれなかった側面にも、興味深い指摘が多数含まれています。

    田中英恵  日本語の形式名詞の意味と用法―「うち」と「なか」の類似性と相違点―
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    「雨が降っているうちに」「雨が降っている中で」など、形式名詞として使われる場合の「うち」と「なか」の用法を比較し、整理した論文です。例文が工夫されており、どのような要因が関わっているかがわかりやすく提示されています。この種の研究では、初めに注目した用法に偏った記述になりがちなものですが、広くいろいろな例文が考察されています。

    松田明子  肯定・否定表現における日本語程度副詞について〜「とても」「なかなか」「まったく」それぞれの差異に注目して〜
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    「とても」「なかなか」「まったく」が、どれも否定呼応表現として使われることは、よく知られていますが、肯定表現として使われる場合の意味の記述は、それほど十分になされてきていないと思います。どのような概念を用いて説明するかについては、いろいろな意見があるところかもしれませんが、「なかなかだね」「まったくだ」など、副詞だけで成り立つ文の意味に注目したところが面白いと思いました。

    2003 年度

    為頼梨絵  形式副詞ホドの非常の用法について
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    「死ぬほど驚いた」のような「ほど」の用法についての考察です。随所にみずみずしい言語感覚がうかがえ、好評を博しました。ここまでくると、さらに「なぜ?」という問いを追究してほしくなりますが、その課題は、機会があれば後輩が引き継いでくれることでしょう。

    増山由梨佳  心理動詞を含む文の特異性とその構造
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    日本語では、どのようなものが psych-predicate と呼ばれるにふさわしいのか、そして、構造的にどのような特異性があるのかを調べようとしたものです。生成文法では、英語やイタリア語の psych-predicate の研究がよく知られていますが、その結果を借用して話を進めるだけでなく、日本語のどの述語にどのような特性があるのか、地道な研究の積み重ねが必要だと考えています。専門的に見れば、個々のテスト文の作り方など、見直していかなければならない点はいろいろありますが、たたき台としての役割は果たしてくれていると思います。

    2002 年度

    山田明子  日本語におけるシタとシテイルの違いについて
    [ひとこと]
    むずかしいアスペクト論ですが、工藤真由美(1995)『アスペクト・テンス体系とテクスト―現代日本語の時間の表現―』などをよく読み込み、問題点を指摘しました。私が九大に赴任した初年度だったため、卒論生にどこまで要求してよいものか見当がつかず、少し及び腰の指導になってしまいましたが、自力でよくがんばってくれました。

    吉見雄希  形容詞を作る接尾辞「ぽい」について
    [ひとこと]
    「男っぽい」「怒りっぽい」など、従来からある「ぽい」の用法に加えて、近年の口語によく見られる「とうとう買ってくれるっぽい」などの用法を南不二男の階層構造の観点から考察したものです。就職活動等で、卒論にとりかかる時期が比較的遅く、少々心配しましたが、最後の追い込みの集中力には感心させられました。